『SELFISH』を読んだ。『達成の科学』も読んだ。対談動画で「最初からうまくいくと思っていた」という話を聞いた。
——別々のところで出会ったはずなのに、どれも同じことを言っている気がする。
そう感じたことはありませんか。実は、気のせいではありません。これらは、同じ源流から流れ出た水だからです。
今日は、その流れをたどってみます。
源流① ティモシー・ガルウェイ|答えは、本人の中にある
1970年代、アメリカのテニスコーチ、ティモシー・ガルウェイが「インナーゲーム理論」を提唱しました。人間性心理学とスポーツ心理学、さらに仏教思想まで取り入れた指導法です。
彼の発見は、ひとことで言えばこれでした。
フォームを細かく指示するより、「ボールの縫い目を見て」と言ったほうが上達する。頭で考えさせるのをやめると、体が本来の動きを取り戻す——そういう発見です。
いまのコーチングの原型は、ここにあります。
源流② ジョン・ウィットモア|ビジネスへ、そしてGROWモデル
イギリスのジョン・ウィットモア卿が、ガルウェイのインナーゲームをもとに、1992年『パフォーマンスのためのコーチング』を出版しました。
そして、いまも世界中で使われているGROWモデルを開発します。
この順番で質問していくという型です。答えを与えるのではなく、問いの順番で相手の思考を導く。
——お気づきでしょうか。先日書いた記事と、同じことを言っています。
「詰める」のではなく「質問」で自責を引き出す。GROWモデルと、発想がそのまま重なります。
答えより問いが大事、という話。コーチングの中心にあるのが、この考え方です。
源流③ トマス・J・レナード|職業としてのコーチング
アメリカのトマス・J・レナードは、コーチ養成機関「コーチU」をつくり、国際コーチ連盟(ICF)を設立しました。曖昧だった「コーチング」を、職業として成立させた人物です。
同じ時期に、ローラ・ウィットワースが「コーアクティブ・コーチング」を開発しています。日本でも広く使われている体系です。
レナードの代表作が、この本でした。
「まず自分を100%満たし、溢れた分を人に与える」。Push(押す)ではなくPull(引き寄せる)という考え方。
源流④ ルー・タイス|エフィカシーとコンフォートゾーン
1936年アメリカ生まれのルー・タイスは、高校のフットボールコーチから出発しました。妻ダイアンさんとともに「人間が成功するための心の仕組み」を探求し、1971年にTPI(The Pacific Institute)を設立します。
現在、世界56か国で毎年200万人以上がプログラムを受講しているとされています。
タイスが広めた言葉は、いまや日常語になっています。
- エフィカシー … ゴール達成に対する、自己能力の自己評価(自己効力感)
- コンフォートゾーン … 心地よく慣れ親しんだ範囲。体温や血糖値だけでなく、年収・キャリア・幸福感にも存在する
- スコトーマ … もとは眼科の「盲点」。心理学では、心が認知できないもの
日本では、苫米地英人さんが2008年春からタイスと共同で、認知科学を取り入れたプログラムを開発しました。「ゴールは、現状の外側に設定する」という考え方は、ここから広まったものです。
そして——ここが面白いところです。
成功した7人が全員「最初からうまくいくと思っていた」と答えた話。これは、エフィカシーそのものです。
行動を止めているのは「リミティング・ビリーフ」。スコトーマと、ほとんど同じことを指しています。
一本の線にすると、こうなります
↓
「答えは本人の中にある」という発見(ガルウェイ)
↓
ビジネスへ・質問の型(ウィットモア/GROW)
↓
職業として確立(レナード/ウィットワース)
↓
脳と認知の科学へ(ルー・タイス → 苫米地英人)
コーチングは、もともとスポーツの現場から生まれたものなんですね。だから、理論が先にあるのではなく、「どうすれば人は伸びるのか」という実地の観察が出発点になっています。
知っておくと、何が変わるか
源流を知る実用的な利点は、ひとつです。
「リミティング・ビリーフ」「スコトーマ」「思い込み」。「エフィカシー」「自己効力感」「自信」。どれも、ほぼ同じものを別の角度から呼んでいるだけです。
これが分かると、新しい本を読むたびに一から学び直す必要がなくなります。「ああ、あれのことか」で済むようになる。学ぶ速度が、はっきり変わります。
そして、流派を乗り換え続ける必要もなくなります。どれが正しいかではなく、いま自分に効くのはどれかで選べるようになるからです。
AIの時代に、なぜコーチングなのか
最後に、私たちの立場から。
コーチングの原点は、「答えを与えない。問いを投げる」でした。
これは、AIの使い方とそっくりです。AIは答えをいくらでも出してくれますが、何を聞くかを決めるのは人です。問いを持っていない人には、AIも力を貸しようがありません。
もうひとつ。AIは、問いを投げる相手としても優秀です。「この件について、私が見落としている視点は?」と聞けば、いくらでも角度を変えて返してきます。疲れませんし、気を悪くもしません。
一人で事業をしていると、問いを投げてくれる人がいません。その役を、半分は引き受けてもらえる——そこがいちばんありがたいところだと感じています。
助言を素直に受け取れるかどうか。AIとの付き合い方にも、そのまま表れます。
おわりに
別々に読んできた本が、実は一本の流れの上にあった。そう分かると、これまで読んだものが、急に意味を持ちはじめます。
点が線になると、次に何を読めばいいかも見えてきます。読書は、冊数より地図を持っているかどうかなのかもしれません。
※ 人物・団体に関する記述は、公開されている資料にもとづいています。受講者数などの数字は、各団体が公表している内容です。