年の始めに決めたこと。毎朝やろうと決めたこと。今月こそ、と思っていたこと。——気づけば、手をつけないまま終わっている。
そういうとき、私たちはたいてい、同じ結論を出します。「私は意志が弱いから」。でも、もしその前提が間違っていたとしたら? マイケル・ボルダック『達成の科学』は、そこに別の答えをくれます。
すべての行動は「快楽」か「痛み」で決まる
この本の土台にあるのは、シンプルな考え方です。
当たり前のようですが、ここから出てくる結論が効きます。行動できないのは、意志が弱いからではありません。その行動に対して——
- 痛み(面倒・こわい・時間がかかる)のほうが大きい
- 快楽(得られるもの)が小さい、または想像できていない
——そういう「配置」になっているだけ、ということです。問題は性格ではなく配置。そして配置なら、今日から変えられます。意志の強さは簡単に変えられませんが、「痛みと快楽の置き方」なら変えられる。ずいぶん救いのある考え方だと思いました。
モチベーションは、出来事ではなく習慣
本書でいちばん引っかかったのが、この一文です。
いい話を聞いて「よし、今日からやるぞ」と思う——あれは出来事です。だから三日で消えます。そうではなく、やる気が生まれる状態を自分で作り続ける。それが習慣だ、と。
そして、成功する人に共通するのは目先の快楽を後回しにできること。ただし根性論ではありません。日々がつらくても、その先に十分大きな意味があれば、痛みは快楽に変わる。だから先に必要なのは「本当にワクワクするゴール」を決めること。がんばり方の前に、何のためにやるのかが先にある、という順番の話です。
止めているのは、無意識の思い込み
行動を止めている本当の原因を、本書はリミティング・ビリーフ(自分を制限する思い込み)と呼びます。「自分にはできない」「どうせうまくいかない」——こうした思い込みは無意識にあるので、本人は気づきません。能力の問題だと思っているけれど、実際は思い込みが先に止めている、という見方です。
対処として挙げられるのが、アファメーション(自己暗示)と、インカンテーション(毎日20分、感情を込めて行う自己暗示)。頭で唱えるだけでなく、感情と体を伴わせるのがポイントだとされています。
いきなり基準を上げない
ここは実務的です。習慣になるまでは、快適な範囲でやる。規律だけ守って、少しずつ広げる。やる気があるときほど高すぎる目標を立て、できなかった自分をまた責める——その入口を、そもそも作らない、という考え方です。
具体的にイメージできたものしか実現しない
これも本書の一文です。そのための道具がビジョンボード(宝地図)。住みたい家、貯めたい金額、どんな一日を過ごしたいか。それを切り抜きや画像で目に見える形にする。
そして、こう問いかけます。「これを手にした今、どう感じるか?」 「手に入れたい」ではなく、すでに手にした前提で、感情を先に味わう。この問い方が面白いと思いました。
環境と、付き合う人を設計する
「悪い付き合いは、良い習慣を台なしにする」。自分の成長を助けてくれる人と付き合い、マスターマインドグループ(2名以上で集まり、互いのプランを改善し合う場)を持つ。意志の力だけでどうにかしようとせず、環境のほうを設計するという発想です。
失敗の「解釈」を変える
最後の章のテーマがこれです。過去の失敗そのものではなく、それにどんな解釈を与えたかが、その後を左右する。
同じ出来事でも、「自分には向いていなかった証拠」と解釈するか、「ひとつデータが取れた」と解釈するか。次の一手がまったく変わります(この考え方は「決めて、動いて、小さく回す」の“失敗はデータ”とも重なります)。出来事は変えられませんが、解釈は変えられます。
この本を書いた人のこと
著者マイケル・ボルダックは、1973年カナダ生まれ。幼少期に過酷な体験をし、吃音症と対人恐怖症を患って高校を中退。あるセミナーを転機に自己変革を始め、目標達成コーチとして「世界No.1」と評されるまでになった人です。
これを知ると、読み方が少し変わります。うまくいっている人が成功法を書いた本ではなく、いちばん底にいた人が、そこから出るために使った方法を書いた本。「痛みと快楽の配置を変える」も「思い込みを壊す」も、本人が実際にやったことなのだと思います。
達成は、性格ではなく技術
この本の主張を一行にすると、こうなります。
だから「達成の科学」なのだと思います。営業を再現できる技術として捉える『Sales is』とも、同じ地平にある考え方です。
私たちは、できなかったとき、まず自分を責めます。でも、責めても配置は変わりません。責めるかわりに、こう聞いてみる。「いま、何が痛みになっているんだろう?」 たぶん、そこからのほうが早いです。
※本記事は書籍の要点を筆者なりにまとめたものです。
『達成の科学』マイケル・ボルダック 著/吉田裕澄 訳/高野内謙伍 監訳/フォレスト出版(2015年)