会社の中に、「昔からそうだから」で続いているルールはありませんか。

誰が決めたのか分からない。理由を聞いても、はっきり答えられる人がいない。でも、変えるには労力が要るから、そのまま続いている——。

今日は、そこに正面から切り込んだ会社の話です。

セムコという会社

ブラジルにセムコ(Semco)という会社があります。リカルド・セムラーが21歳のときに父親から引き継いだ、小さな機械工場が出発点でした。

この会社には、普通の会社にあるものが、ほとんどありません。

代わりにあるのが、これです。

日本では『奇跡の経営』という本で紹介されています。

セムラーが、問い続けたこと

彼がやったことは、制度をつくることではありませんでした。一つずつ、問いを立てていったのです。

「なぜ、そうしなければいけないのか?」

なぜ9時に出社するのか。なぜ服装を決めるのか。なぜ上司が部下を評価するのか。

そして——答えられないルールは、やめる。

根っこにあるのは、2つの考え方です。

真髄は、制度ではありません

セムコの話は、どうしても「給与を自分で決める」「投票で決める」といった制度の面白さに目が行きます。でも、そこを真似しても、セムコにはなりません。

真髄は、もっと手前にあります。人をどう見ているかです。

管理が、管理の必要な人をつくる。

出退勤を一分単位で管理されれば、人は時間だけを守るようになります。経費を一円単位で疑われれば、疑われない書き方を覚えます。「信用されていない」という扱いを受け続けた人は、信用されない振る舞いに寄っていく。

逆もまた同じです。大人として扱われた人は、大人として振る舞おうとします。セムラーが見ていたのは、この循環でした。

だから彼は、ルールを減らしたのではありません。人間観を先に変えて、その結果としてルールが要らなくなった——順番はこちらです。

もうひとつの真髄:権限と情報は、必ずセット

「任せる」とだけ言って、判断材料を渡さない。これが、いちばん多い失敗です。

数字を見せずに「コスト意識を持て」と言う。背景を説明せずに「自分で考えろ」と言う。情報を渡さないまま責任だけ渡すのは、丸投げです。

セムラーがやったのは、その逆でした。権限を渡す前に、情報を渡した。帳簿を開いたのは、気前がよかったからではなく、判断してもらうために必要だったからです。

そして、目的が違う

ここがいちばん、見落とされやすいところかもしれません。

セムラーの目的は、生産性を上げることではありませんでした。彼が一貫して言っているのは、「仕事が人生を縛ってはいけない」ということです。

会社がうまくいったのは、結果にすぎません。人を自由にしたら、たまたま業績もついてきた。順番が逆だと、同じことをしても同じようにはならないのだと思います。

なぜ、それで会社が回るのか

ここが、いちばん大事なところだと思います。

「自由にしていいよ」だけでは、組織は回りません。セムコが成立しているのには、理由があります。

情報を、すべて開示しているからです。

会社の数字が見えていれば、「今、自分がいくらもらうべきか」を社員自身が判断できます。利益が出ていないのに高い給与を求める人は、そう多くありません。数字が見えているからこそ、自分で決められるのです。

逆に言えば、帳簿が見えないまま「給与は自分で決めて」と言われても、誰も決められません。信頼と情報公開は、セットでしか成り立ちません。

そのまま真似してはいけない、3つのこと

ここは正直に書いておきます。憧れだけで制度を入れると、たいてい失敗します。

① いきなり「給与は自分で決めて」
情報公開が先です。数字を見せないまま任せると、決められないか、不公平感が残ります。
② いきなり「ルールを全部なくす」
ルールがなくなった状態は、自由ではなく混乱です。何を残して何をやめるかを、一つずつ決めていく作業が要ります。
③ いきなり「多数決で決める」
投票は、全員が同じ情報を持っているときにだけ機能します。情報に差があるまま多数決にすると、声の大きい人の意見が通るだけになります。

セムコも、一日でこうなったわけではありません。何十年もかけて、少しずつ変えてきた結果です。

小さな会社が、今日からできる3つ

そのうえで、小さな会社だからこそ、今日からできることがあります。

① ルールの棚卸しをする

社内のルール・習慣を、紙に書き出してみてください。そして、一つずつこう聞きます。

「これ、なぜやっているんでしたっけ?」

答えられるものは、残す。答えられないものは、やめてみる。やめて困ったら、戻せばいいだけです。小さな会社なら、試すコストはほとんどかかりません。

② 数字を見せる(範囲を決めて)

全部をいきなり公開する必要はありません。まずは、自分たちの仕事に直接関わる数字からで十分です。

「この案件はいくらで受けて、いくら残ったか」。これが見えるだけで、現場の判断は変わります。値引きの相談をされたときの反応が、まるで違ってきます。

③ 「決め方」を決める

いちばん混乱を生むのは、ルールが多いことではありません。誰が決めるのかが、曖昧なことです。

この3つに仕分けして、共有しておく。それだけで、「勝手に決めた」「なぜ相談しない」という行き違いが、かなり減ります。

身軽さは、小さい会社の武器です

セムコのような大きな組織が、あそこまで変わるには何十年もかかりました。

でも、数人の会社なら——明日から変えられます。稟議も、根回しも、全社説明会もいりません。「これ、やめようか」と言えば、その日から終わります。

変えられることが、小さい会社の最大の強みです。ルールが少ないことではなく、いつでも変えられること。そこに価値があります。

整理する作業は、AIが得意です

最後に、私たちの立場からひとつ。

ルールの棚卸しも、「決め方」の仕分けも、結局は言葉にして整理する作業です。頭の中にあるものを書き出し、分類し、人に読める形にする——ここはAIがとても得意なところです。

社長が話したことを文章にまとめる。曖昧な表現を具体的にする。抜けているところを指摘する。こうした手間を任せられると、社長は「どうするか」を考えることに集中できます。

ただし、やめるかどうかを決めるのは、人です。ここだけは渡せません。

おわりに

セムラーがすごいのは、自由な制度をつくったことではないと思います。

「答えられないなら、やめる」を実行し続けたことです。

まずは一つ。「これ、なぜやっているんだろう」と思っているものを、思い出してみてください。そこから始められます。

関連して、部下の自発性を引き出す3つの原則、「自分でやったほうが早い」から抜けられない社長へも書いています。

※ セムコ社に関する記述は、公開されている資料や書籍『奇跡の経営』、リカルド・セムラー氏のTED講演「(ほぼ)ルールなしで会社を経営する方法」で紹介されている内容にもとづいています。