お客様は、なぜその商品を選ぶのか。人は、なぜ怒り、なぜ辞めたくなるのか。そして、なぜあの人のところには人が集まるのか。
その答えを、驚くほどシンプルに説明してくれる考え方があります。アメリカのコーチ、アンソニー(トニー)・ロビンズさんが提唱している「6つのヒューマンニーズ(6 Human Needs)」です。
今回は、ビジネスコーチの秦卓民さんの動画で語られていた実例をもとに、この考え方を一人で事業をしている方、お客様と関わるすべての方に向けてまとめます。
AI時代にも必要な力
文章を書く、調べる、資料をつくる。多くのことを、AIがこなしてくれる時代になりました。では、人に最後まで残る力は何でしょうか。
秦さんは、AIにまだ十分にできないことがあるとすれば、それは人の心を動かすことだと話していました。そして、その土台になるのが6つのヒューマンニーズです。
相手が何を満たしたいのかを知り、それを満たす。この原理原則が分かれば、セールスでも、サービスでも、人との関係でも、再現性をもって人の心を動かせるようになります。秦さんの会社では、この考え方を実践したことで、社員の定着率が大きく上がったそうです。
6つのヒューマンニーズとは
② 変化・挑戦 新しいこと、刺激、挑戦がほしい
③ 重要感 自分は特別だ、必要とされていると感じたい
④ 愛と繋がり 誰かと平等に、近くにいたい
⑤ 成長 自分の力を広げたい
⑥ 貢献 人の役に立ちたい、与えたい
そして、1と2、3と4、5と6は、真逆の組み合わせです。人は、安定したいけれど変化もほしい。特別でいたいけれど、みんなと平等に繋がってもいたい。自分を伸ばしたいけれど、人のためにも生きたい。真逆のニーズを、両方同時に持っているのです。
6つは誰にでもありますが、どれを優先するかは人によって違います。
① 安定——「相手が」安心しているか
安心・安全は、人間の基礎的な欲求です。安心できない場所では、ほかのことに気持ちを向けられません。安心には、物理的な面(約束どおりに届く、支払いがきちんとしている)と、精神的な面(否定されない、何でも話せる)の両方があります。
大切なのは、こちらが安心を提供しているつもりかどうかではなく、相手が安心だと感じているかどうか。だから、聞きに行きます。
「では、12点になるには、何があればいいですか?」
10点ではなく12点。期待を超えるために何が必要かを聞くと、自分たちでは気づかなかった改善点が見えてきます。
② 変化・挑戦——安定だけでは満たされない
毎日まったく同じ生活では、どれだけ安定していても満たされません。常連のお客様に、ときどき季節の一品を出す。いつものサービスに、小さなサプライズを加える。それが、お客様の変化のニーズを満たします。
セールスでは「1年後にどうなっていたら、挑戦できたと思えますか?」と聞き、相手の中にある「変わりたい」気持ちを引き出して後押しする。秦さんはこれを「変化のニーズをサポートする」と表現していました。
アンソニー・ロビンズさんは、「人生の本当の幸福は、ある程度の不安定さに比例する」と言っているそうです。程よい挑戦をやり遂げたあとの達成感の中に、本当の幸せがあります。
③ 重要感——いちばん大きなニーズ
人は、自分が重要だと思える場所に、い続けます。
秦さんは以前、大切に思う社員に期待をこめてアドバイスばかりしていたところ、「自分は大した存在じゃないと思われている気がする」と言われたそうです。
存在と、結果は、違う。
まず、その人の存在自体に感謝を伝える。そのうえで「どうなりたい?どうサポートすればいい?」と聞く。最後に伝えるアドバイスは同じでも、合意があるかないかで、相手の受け取り方はまったく変わります。
怒りの多くも、重要感と結びついています。部下の遅刻に怒るのは、遅刻そのものではなく、「自分が低く見られた」と感じたから。だからこそ、重要感が傷つきそうなときに、自分で自分を満たす技術を持っておくことが大切です。
問いかけて、これまでの事実を思い出す。誰かに満たしてもらうのを待つのではなく、自分で自分を満たす。それが心を安定させる力になります。
④ 愛と繋がり——LOVEは平等
重要感が「他の人と違う」なら、愛と繋がりは「平等」です。フラットな関係の中で、愛に包まれていたいというニーズです。
- お客様と、上下関係はないと伝える
- コミュニティは、上下関係のないフラットな場にする
- 「いらっしゃいませ」より「こんにちは」で、お客様とコネクトする
- 苗字ではなく、下の名前で呼び合う
そして何より、否定しない人間関係をつくること。人は、否定されないと分かっている場所でだけ、本当の気持ちを話せます。
⑤ 成長——重要感と連動している
生命とは、すべて成長したいと思っている。それでも「今のままでいい」と言う人がいます。
秦さんの見方では、成長のニーズを閉ざしてしまうのは重要感が満たされていないとき。「成長したい」と言ってできなかったら、また傷つく。だから、自分から成長を閉ざす。成長と重要感は、連動しているのです。「成長する気がない」と思ったときこそ、先に重要感を満たせているかを振り返りたいところです。
⑥ 貢献——お願いの力を使う
本来、人は貢献したい生き物です。だから、紹介をお願いできるのは、相手が貢献したいから。頼まれる、お願いされると、人はうれしく思えます。
人が「助けたい」と思うのは、相手が真剣なときと、脆さやピンチを隠さず話したとき。弱さを見せることは、相手に貢献する機会を渡すことでもあります。
スティーブ・ジョブズさんは12歳のとき、HPの共同創業者ビル・ヒューレットさんに電話をかけて部品を分けてもらい、夏の仕事までもらったそうです。のちに彼は「ほとんどの人は、お願いしない」と語っています。お願いの力を使う。それが、相手の貢献のニーズを満たし、自分の可能性を開きます。
結果が出ないから辞める人は、どこへ行っても同じ
「結果が出ないので辞めます」という人がいます。そう思ったときこそ、立ち止まってほしいと秦さんは話していました。
結果が出た人は、お客様の6つのニーズを満たせたから結果が出た。結果が出ずに辞める人は、まだ相手の6つのヒューマンニーズを満たす実力がない。だから職場を変えても、どこに行っても同じことが起きます。
「会社が悪い」「上司が悪い」とベクトルが外に向いているあいだは、変えられるのは相手や環境だけ。自分にベクトルを向けること。「どうすれば相手を満たせるか」と問いかけた瞬間に、自分にできることが見えてきます。
相手を満たすと、自分も満たされる
この考え方で、いちばん大切なことです。
そして、自分の6つのヒューマンニーズを満たせると、パワーが持てる。
紹介をお願いするとき、相手の貢献と重要感を満たしながら、自分も「言えなかったことが言えた(成長)」「挑戦できた(変化)」「役に立てている(貢献)」を感じられます。誰も損をしない。だから、とてつもない力になります。
一人で事業をしている方へ
一人で事業をしていると、目の前の作業に追われて、お客様の6つのニーズを振り返る時間がなかなか取れません。
Masy'sでは、見積書や請求書、発信の下書き、情報の整理といった作業をAIに任せ、人にしかできない「お客様の話をちゃんと聞き、ニーズを満たす時間」を取り戻すお手伝いをしています。AIが進化しても、人の心を動かすのは人です。
今日から、できること
二、お客様に「10点満点で何点?12点になるには?」と聞いてみる
三、「なぜ、私は重要なのか?」の答えを書き出しておく
人の心を動かすのは、特別な才能ではありません。相手が何を満たしたいのかを知り、それを満たそうとすること。そして、その中で自分も満たされていくこと。6つのヒューマンニーズは、AI時代にも一生使える力だと思います。
参考:「秦卓民の人生を変えた『6つのニーズ』|人の心を動かす原理原則を徹底解説」(秦卓民 ビジネスコーチch)YouTube。6つのヒューマンニーズは、アンソニー・ロビンズさんが提唱している考え方です。関連記事:うまくいく人に共通する4つのこと
(文:佐藤雅代)