これまで、たくさんの人の話を聞いてきました。その中で、ずっと気になっていることがあります。教わったやり方があるのに、いつの間にか自分のやり方に戻ってしまう——我流で仕事をしてしまう人がいることです。
なぜ、そうなるのか。私が行き着いた答えは、ひとつです。
目的がないと、型を守る理由がない
仕事には、たいてい「型」があります。先にうまくいった人が、何度も失敗してたどり着いたやり方です。でも目的がはっきりしていないと、その型がなぜそうなっているのかが分かりません。意味の分からない手順は面倒なだけに見えるので、省く。変える。そうして少しずつ我流になっていきます。
反対に、目的がはっきりしている人は、いちばん早くたどり着く道を探します。それは、たいてい先にたどり着いた人のやり方です。だから目的がはっきりしている人ほど、素直に型を真似するのだと思います。
コーチの松本進さんは若いころ、師匠のやり方を「これは日本人には合わない」と決めつけて自分のやり方に戻り、十年遠回りしたと話しています。若ければ十年かかっても取り戻せます。でも、五十代だったら——気づいたときには六十代です。
頑固さと、自分軸は、違う
- 自分軸がある人:目的がはっきりしているので、目的のためならやり方はいくらでも変えられる。自分を客観的に見ていて、今どこにいて何が足りないかが分かっているから、人から学べる
- 頑固な人:やり方そのものにしがみつき、いつの間にか「変えないこと」が目的になっている。自分を客観視できていないから、今のやり方の何がずれているのかに気づけない
頑固でも、探究心があれば「なぜ、あの人はうまくいっているんだろう」と考えられます。そこから変わる入口が生まれる。でも頑固で、しかも探究心がないと、変わる入口がどこにもなく、同じところをぐるぐる回り続けます。
知り合いからは、その場に合わせた言葉しか返ってこない
大事なのは、どこから学ぶかです。学びからは事実が見えてきます。でも知り合いに聞いても、返ってくるのはその場に合わせた言葉だけです。
「それは、あなたの特徴だから、差別化できるよ」——うれしい言葉です。でも、そこからは大事なことが分かりません。その差別化は、その場で本当に必要なのか。お客様になる人は、どこを見ているのか。知り合いの言葉はやさしさかもしれませんが、お客様の目で見た自分の姿は見えてこないのです。
「ようやく、ここまできた」は、スタートライン
広告を出したところで、「ようやく、ここまできた」と話す人がいました。気持ちは分かります。でも広告を出すことは、ゴールではありません。ようやく、スタートラインです。
たとえば月に三十万円の広告を出しても、三か月出し続けて、ようやく届けたい人に届き始めます。しかも決まる割合は悪くなってきている。その半分の金額なら、なおさらです。
そして、そこからが実力の出るところです。三百万円の商品を買ってくれそうなのは、社会経験が豊かな人です。その人たちが見ているのは、商品の説明だけではなく「この人に任せて大丈夫か」。経験のある人は自分が見てきたことをそのまま話せますが、経験のない人はどこかで聞いた言葉で答えるしかありません。その違いは、すぐに伝わります。
目的が見えていないと、途中の一歩を到達点だと思ってしまいます。自分を客観視できていれば、今いる場所がスタートラインだと分かるはずです。
長く続けても、うまくなるとは限らない
茶道や武道には「守破離」という言葉があります。教わった型を守り(守)、身につけたうえで工夫し(破)、型から離れて自分のやり方をつくる(離)。我流とは、「守」を飛ばして、最初から「離」をやろうとすることです。
「でも、このやり方で長くやってきた」と思う方もいるかもしれません。心理学者のアンダース・エリクソンさんは、三十年以上にわたって各分野の「超一流」を研究し、毎日同じように仕事をしていても、それは今のレベルを保つ練習にしかならないと述べています。経験二十年、三十年の医師が、経験の浅い医師より成績が劣っていたという研究も紹介されています。伸びる練習の条件として挙げられているのは、次のようなものです。
- はっきりとした目標がある
- フィードバックをもらう
- 慣れた範囲から、一歩外に出る
- やり方を教えてくれる指導者がいる
どれも、我流の反対側にあるものです。長くやってきたことは、うまくなったことの証明にはなりません。
一人で事業をしている方へ
一人で事業をしていると、教えてくれる人も、率直に言ってくれる人もいないまま、我流になりやすいものです。AIの導入も同じで、ツールを入れたこと自体はゴールではなく、出発点です。何のために使うのかがはっきりしていないと、便利そうな機能をつまみ食いして終わってしまいます。
そして、成功している人ほど学び続けています。勉強が好きか嫌いかは関係ありません。自分の理想の生き方に近づきたいなら、学んだことを素直にやってみて、うまくいかなければまた学ぶ。それをくり返すことが、我流から抜け出すいちばんの近道です。
まずは次の3つから始めてみてください。
- 「何のために、この仕事をしているのか」を書く
- 目的を果たしている人を一人決め、しばらくそのまま真似する
- 「なぜ、うまくいっているんだろう」を一日ひとつ考える
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時間には限りがあります。だからこそ、気づいた今日が、いちばん若い日です。あなたは何のために今の仕事をしていますか。そして、そのやり方は、誰から学んだものでしょうか。
紹介した本:『超一流になるのは才能か努力か?』アンダース・エリクソン、ロバート・プール 著/土方奈美 訳(文藝春秋、2016年)
(文:佐藤雅代)