「AIを入れたのに、社員が使ってくれないんです」

導入後、いちばん多くいただくご相談です。社長ご自身は便利さを実感している。だから余計に、もどかしく感じられるのだと思います。

先にお伝えしておきます。全員が使うようには、なりません。そして、それで構いません。

新しい道具は、いつもこうです

パソコンのときも、スマートフォンのときも、同じことが起きました。

この形は、変えられません。変えられるのは、真ん中の「様子を見ている人」が動きやすくなるかどうかです。

ここを間違えて「全員に使わせよう」とすると、たいてい反発を招いて終わります。

使わない、4つの本当の理由

やる気の問題ではありません。だいたい、この4つです。

① 使う場面が、決まっていない

「何にでも使えます」は、受け取る側からすると「何に使えばいいか分からない」と同じです。

道具だけ渡されても、人は動けません。「この作業に、これを使ってください」まで決まっていて、はじめて使われます。

② 最初の1回で、失望した

試しに聞いてみたら、当たり障りのない答えが返ってきた。「使えないな」と判断して、それきり——これが非常に多いです。

AIは、聞き方で結果が大きく変わります。でも、それを知らない人は「AIが悪い」ではなく「自分には合わない」と結論づけて離れていきます。

③ 今のやり方で、回っている

忙しい人ほど、新しいやり方を学ぶ余裕がありません。今日の仕事は、今日のやり方で終わらせたい。当然の判断です。

「覚えたら楽になる」は正しいのですが、楽になるまでの時間を、誰も持っていないのが現実です。

④ 使っていいのか、分からない

これが、いちばん見落とされます。

「AIに書かせたと知られたら、手を抜いたと思われないか」
「お客様の情報を入れて、怒られないか」

許可が出ていないと感じている人は、使いません。禁止されていなくても、同じことです。

広げるときの、順番

一、1業務・1人から始める

全社研修から入ると、ほぼ失敗します。いちばん面倒な定型作業を1つ選び、それをやっている1人に渡す。これだけです。

その人が楽になった姿を、周りが見る。これが、どんな研修よりも効きます。

二、「使っていい」を、はっきり言う

社長が口に出して伝えてください。

「AIで下書きを作って構いません。むしろ、そうしてください。
最終確認だけ、人がやってください。」

これを言うだけで、④の不安はほぼ消えます。言わないと、伝わりません。

三、「時間が減った」を褒める

成果物の質を褒めると、質を上げる方向に力が向かいます。そうではなく、「それ、何分で終わった?」と聞いてください。

目的は、楽になることです。評価する場所を間違えないようにします。

四、うまくいった聞き方を、社内に置く

誰かが良い結果を出したら、そのときの指示文を、そのまま共有します。メモ1枚で構いません。

これをしないと、できる人だけができる状態になります。せっかくAIを入れたのに、新しい属人化が生まれてしまいます。

五、使わない人を、責めない

最後まで使わない人は、残ります。その方には、別の得意があります。

使う人が楽になれば、全体の時間は空きます。全員が使う必要は、ありません。

やってはいけない、3つのこと

一、全社一斉の研修から始める
使う場面が決まっていない状態で学んでも、翌週には忘れます。
二、「利用率」を目標にする
数字を追うと、使う必要のない場面でも使うようになります。目的がすり替わります。
三、道具を配って終わりにする
アカウントを配っただけで使われるなら、誰も苦労しません。

ルールは、3行で足ります

細かい規程は要りません。最初は、これくらいで十分です。

一、お客様の個人情報は、入れない
二、出てきたものは、必ず人が確認してから使う
三、迷ったら、聞く

長いルールは読まれません。短いから、守られます。

最後に、一人で事業をされている方へ

社員がいない場合、この話は自分に返ってきます。

「使わない人」になっているのは、自分ではないか。

理由は、たぶん同じです。使う場面を決めていない。一度試して期待外れだった。今のやり方で回っている。

対処も同じです。いちばん面倒な作業を1つだけ選んで、今週それだけ任せてみる。そこからで大丈夫です。

関連して、AIリテラシーの底上げ、質問力の大切さ、「自分でやったほうが早い」から抜けられない社長へも書いています。